動物細胞において、生合成された新生ポリペプチド鎖のうち間違った構造が形成されて正常な機能を欠いたタンパク質は生命維持のために危険であり、小胞体内で分解されることが示されつつある。著者はこの分解を司ると考えられるまったく新しいタイプのシステインプロテアーゼを、ラット肝臓の小胞体から世界に先駆けて単離することに成功した。ER-60プロテアーゼと命名したこのシステインプロテアーゼは、酸性リン脂質による阻害など特異な性質を示した。そこでER-60の活性中心と酸性リン脂質の作用部位などを分子レベルで解析することを目的に研究を行い、平成5年度は以下の研究実績を挙げた。 1. ラット肝臓のER-60プロテアーゼのcDNAのクローニング ラット肝臓から調製したmRNAを用いて作製したcDNAライブラリーから、ER-60プロテアーゼのcDNAをオリゴヌクレオチドプローブとシェーカーを用いてクローニングした。さらに本クローンの全ヌクレオチド配列を決定した。 2. 大腸菌での発現系の確立 得られたER-60プロテアーゼのcDNAからPCR法によって増幅したDNA断片を発現用のベクターにサブクローニングし、大腸菌にトランスフォームしてER-60プロテアーゼタンパク質を発現させた。 3. 新規小胞体局在性システインプロテアーゼの精製 ER-60プロテアーゼ以外の小胞体局在性システインプロテアーゼをラット及びマウスの肝小胞体から単離することに成功し、これをER-72プロテアーゼと命名した。さらにER-72プロテアーゼの諸性質を明らかにした。
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