研究概要 |
蛋白質工学的手法によりリゾチームのC-末端に種々の長さの疎水ペプチドを挿入し、グラム陰性菌に対する抗菌性を有するリゾチームを作成することを目的とし研究を行った。このために、挿入する疎水性ペプチドとしてPhe-Val-Pro(H3),Phe-Phe-Val-Ala-Pro(H5),Phe-Phe-Val-Ala-Ile-Ile-Pro(H7)の三種の異なる長さのペプチドをコードする合成DNAをリゾチームcDNAのC-末端に挿入し、融合リゾチームのcDNAは酵母発現ベクターPYG100に組み込み、酵母倍地中にリゾチームを発現、分泌させた。しかしながらこの疎水ペプチド融合リゾチームの分泌量は極めて少なく、したがって、分泌量を増加させるために、49位のGlyをAanに置換し(G49N)、この部位に糖鎖を結合させ、高分泌させるようにした。この置換により、疎水ペチプド融合リゾチームは多量に発現、分泌した。 分泌した融合リゾチームはいずれも70-80%の触媒活性を示し、またモノクローナル抗体による構造解析の結果からも立体構造が保持されていることが示された。融合した疎水基の長さが大きくなるにつれて、グラム陰性菌(大腸菌)に対する抗菌性が強くなり、H3では20%の菌体しか死滅しないが、H5、H7では80%以上が死滅することが明らかになった。こうして、より強力な抗菌性を発現する疎水ペチプド結合リゾチームをデザインし、抗菌スペクトラムの拡大した新規なリゾチームの設計、作成に成功した。 さらに、疎水ペプチド融合リゾチームのグラム陰性菌に対する抗菌スペクトラム改変の機構について検討した結果、疎水ペプチドが菌体の外膜リポポリサッカライドと強く結合し、ペリプラスムのペプチドグリカンを開裂し、引続き内膜に疎水基が結合することにより、抗菌性を示すことが明らかになった。
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