高地を含む低酸素環境下での栄養素の代謝生理学は非常に遅れている。このような環境下では、炭水化物と脂質の吸収不良が起こるという報告があるのに対して、吸収が正常に行なわれているという報告もあり、結論は出ていない。我々は低酸素環境下で消化吸収が正常に行なわれているかどうかを検討するため、間欠自由摂取に順応させたラットを低酸素環境(10.5% O_2と7.6%O_2)に暴露した。 低酸素暴露ラットでは、タンパク質の主要な最終代謝産物である尿中尿素の排泄速度が、コントロールに比べて遅延し、その速度は酸素濃度の低下とともに減少した。その主要な原因は、吸収不良というより消化不良(胃排出遅延)によるものであった。また原因は不明であるが、低酸素暴露ラットの方が総尿素排泄量は増加していた。次に胃酸分泌に関与するガストリン濃度を測定したところ、低酸素暴露したラットの血中ガストリン濃度がコントロールに比べて増加し、そのレベルは酸素濃度低下とともに上昇した。このガストリン濃度の上昇は摂食後だけでなく絶食時においても低酸素暴露で上昇した。そこで幽門を結紮したラットを低酸素暴露し、胃液及び胃酸分泌を測定した。その結果、低酸素暴露ラットはコントロールラットに比べて胃液及び胃酸分泌の低下が認められた。これらの結果は、低酸素暴露が胃排出能と胃酸分泌を低下させることを示し、そして胃酸分泌に及ぼす低酸素暴露の阻害効果が、正のフィードバック調節を通してガストリン放出を上昇させることを示唆している。今回の研究は、高地のような低酸素環境下での居住者のみならず、肺あるいは心疾患、さらには悪性貧血による低酸素症の患者の栄養素の代謝生理学の解明に大いに貢献し、さらに栄養療法に多大な情報を提供することが期待される。
|