研究概要 |
本研究は、生体の成長において蛋白質栄養が単に生体材料としてのみではなく、増殖シグナル、およびそのモジュレーターとしての機能を有するという仮説を実証しようとするものである。これまで、蛋白質としてガゼインとツエインを用い成長期ラット肝臓でのc^-myc、インスリン様増殖因子-1(1GF^-1)の発現とDNA合成の関わりを検討してきた。その結果、これらが蛋白質の栄養価に依存して変動することが明かとなった。本年度はこの現象の普遍性を確認することと、たんぱく質栄養の効果をさらに詳細に検討するために、扱いやすいマウスを実験動物として用い研究を進めた。成長期のマウスを無たんぱく質食で飼育し、肝臓のc^-myc mRNA量の変動を調べたところ同様無たんぱく質食摂取後c^-myc mRNA発現量が増加し3-4日後にピークに達した。次にたんぱく質含量と発現量および成長との関係を検討した。マウスを0.2.5,5,10,20,40%のカゼインを含む食餌でそれぞれ4日間飼育したところ、たんぱく質含量が10%以上ではどの群も正常な成長を示し、肝臓でのc^-myc mRNAの発現は検出することができなかった。一方、たんぱく質含量が5%以下で成長は抑制されるが、このとき抑制の程度が大きいほど、すなわち食餌たんぱく質含量が少ないほど肝臓のc^-myc mRNA発現量が高くなった。さらに無たんぱく質食で飼育した後にたんぱく質含量の異なる食餌を与えると、たんぱく質含量が10%以上の食餌ではc^-myc mRNA量は速やかに減少し12時間後にはほとんど検出できなくなるが、5%以下ではたんぱく質含量が少ないほど高いレベルに留まった。以上、肝臓のc^-myc mRNA発現は食餌のたんぱく質含量に依存して変化するが、たんぱく質含量が少なく成長が抑制されるほどその発現量が高くなることが明らかとなった。このように、c^-mycのような細胞増殖に密接に係わる遺伝子の発現が食餌たんぱく質により速やかに変動することはたんぱく質栄養が単に生体構成材料の供給だけではなく増殖のシグナル及びそのモジュレーターとしての機能を有することを強く示唆している。 なお、本年度はこのほかにアミノ酸混合食を用い栄養価の効果をさらに詳細に検討する予定であったが、申請者が年度途中に東京慈恵会医科大学医学部から京都府立大学農学部に赴任したため予定が遅れ現在検討中である。
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