本研究は、生体の成長において蛋白質栄養が単に生体材料としてのみではなく、増殖シグナル、あるいはそのモジュレーターとしての機能を有するという仮説を実証しようとするものである。まず、成長期のラットあるいはマウス(3-4週令)を種々の栄養条件で飼育し、増殖関連遺伝子の肝臓での発現変動を検討した。その結果、c-myc mRNA量とインスリン様増殖因子(IGF-1)mRNA量が食餌たんぱく質の量と質(栄養価)に鋭敏に反応し、相反して変化することが明かとなった。すなわち、たんぱく質栄養が悪化し成長が悪くなるほどc-myc mRNA量は増加し、IGF-1 mRNA量は減少した。次に、無蛋白質食で飼育したラットにカゼイン食を与えるとc-myc mRNAの速やかな減少に続いてDNA合成が誘導されるが、ツエイン食にはこのような効果はがないこと、しかし、ツエイン食に欠失しているアミノ酸(トリプトファン、リジン)を補足するとカゼイン同様c-myc mRNAの速やかな減少とDNA合成の誘導が見られるようになることを見いだした。これらの結果から現在、栄養条件が悪くなると肝細胞は細胞周期のG1期でアレストされ、その結果c-myc mRNAが蓄積し、G1からS期への進行に蛋白質栄養が関与するものと考えている。また、このときIGF-1 mRNA量はc-myc mRNA量と相反して変動し、カゼイン食で肝臓のDNA合成が誘導される様な条件で増加した。血中のIGF-1は主に肝臓で合成され、様々な組織の増殖を促進させるものと考えられているが、以上の結果は肝臓の増殖と生体の成長が同調して蛋白質栄養で調節されていることを示唆している。このことは成長期のラットにおいて肝重量の増加と成長が平行しているという事実と一致する。次に、初代培養肝細胞を用いて培地のアミノ酸組成がこれらの遺伝子発現にどのような影響を与えるか検討した。その結果、培地からアミノ酸を欠失させるとc-myc mRNA量が2-3時間後に15倍以上に増加すること、これはmRNAの安定化によることが明かとなった。 以上のように、増殖関連遺伝子の発現がたんぱく質栄養、あるいは培地アミノ酸栄養に鋭敏に反応し変化することはこれら栄養素が単に生体材料としてのみではなく、増殖シグナル、あるいはそのモジュレーターとしての機能を有することを強く示唆している。
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