本年度は、マウスを実験動物として、初年度で得られた成果から、全身性の免疫障害は起こさないが局所的に障害が観察される程度のトリコテセンの投与条件およびリンパ系臓器に影響を与える投与条件を設定し、全身性感染症であるリステリアを感染させ、死亡率への影響、免疫系の生体防御機構への影響を見た。トリコテセンの腸管細胞への毒性をin vitroで調べるために、初年度で確立した方法でトリコテセンの暴露によって起こる細胞レベルでの障害を検討した。 その結果、局所的に障害が観察される程度の投与条件およびリンパ系臓器に影響を与える投与条件で短期的に投与しにリステリアを感染させた場合トリコテセン非投与群より死亡率が低くなることがわかった。この感染抵抗性の機序に関しては、トリコテセンを暴露することによって体内の免疫担当細胞の数は顕著に減少するが、特にマクロファージの殺菌活性を左右するサイトカインであるTNF-alphaおよびIFN-gammaの産生能が高まることから、リステリアがマクロファージで増殖できなかったためと考えられた。また、この反応は、合成ステロイド剤であるプレドニゾロンを投与した後リステリアを感染させたときと同じ傾向を示していたことから、トリコテセンが直接マクロファージに影響を与えたのではなくmediaterとしてホルモンが考えられた。トリコテセンの暴露によって起こる細胞レベルでの障害を検討した結果、培養系のヒト腸管細胞への直接的な影響は認められなかった。この結果からもトリコテセンが直接組織や細胞に障害を与えるのではなくホルモンなどのmediaterを介して起こっていることが考えられた。 以上のことから、免疫機能に重大な障害を与えるトリコテセンは、短期的に投与した場合には、マクロファージの活性を高めるサイトカインの産生能が高め感染症に対して抵抗性が高まることが明らかになった。
|