本研究は、安倍川の源流部にある大谷崩を大規模崩壊地の1つとして取り上げ、そこでの土砂生産の様式や規模あるいは土石流の発生に関する降雨条件などを把握することを試みたものである。 観測期間は1993年から1994年にかけての2年間であるが、この期間数回にわたり水圧センサーが流失したため、その都度再設置してようやく4例の土石流ハイドログラフを得ることに成功した。また土石流の流下実態を捉える目的で観測ビデオ装置も設置したが、電源トラブルや誤動作があり、そのものを撮影するには至らなかった。なお、1994年9月には予想を超える土石流の発生があり、水圧センサー、ビデオ観測装置の架台は流失している。 したがって、得られた土石流のハイドログラフは4例でしかないが、これより次のような特徴が明らかとなった。すなわち、(1)土石流のハイドログラフは10分間雨量強度に敏感に急上昇し、降雨終了とともに急減水する。(2)土石流のピーク流量は10分間雨量。時間雨量に対し線形的な関係がみられる。(3)ピーク流量と総流出量との関係は対数表示で直線近似が成立するようである。一方、土石流の発生に関する降雨条件やピーク流量に関する定量的な関係をまとめると次のようである。(1)土石流は10分間雨量で約7mm、時間雨量で約12mmを超えるとほぼ間違いなく発生する。(2)土石流のピーク流量は2〜13m^3/Sの範囲で、総出量は8000〜80000m^3であった。(3)ピーク流量の大きさは、清水時のそれに比べ、約4〜6倍に相当すると判断された。
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