参加・協約にもとづく新たな森林利用は、種々の状況のなかで萌芽的に発生しつつあり、それぞれがケース・バイ・ケースである。よって、広く情報を集めることが重要であり、また、取りまとめるためには問題を絞っていくことも肝要である。今年度は、林野庁、京都大学、森林レクリエーション協会などに出向いて資料収集に努め、また、株式会社「たもかく」、ニッセイ緑の財団、神奈川県の「県民手づくりの森」造成事業・「きづなの森」造成事業、および横浜市の「ふれあいの樹林」設置事業について現地調査をおこなった。 中間総括をして、11月には林業経済学会で「参加・協約による新たな森林利用」と題して学会発表をおこなった。また、「森業(もりぎょう)-参加・協約による新たな里山づくり」と題した論文を図書刊行した(北川泉編著『森林・林業と中山間地域問題』所収)。これらは、都市住民が参加し、協約にもとづいて森つくりに取り組んでいる4つの事例を取り上げて分析し、その意義づけをおこなったものである。概要は以下のごとくである。 森林クラブによるものは、参加費を払ってでも山仕事をやりたい仲間が集まって分収造林事業として進められている。神奈川県では、都市住民が参加して自分たちの森つくりができるように、種々の支援策を施して実績をあげている。阿蘇グリーンストックは、グランドワーク型トラスト方式による次代に贈る環境形成運動であり、特定市民を組み入れた「拡大入会権」での田園リゾートが追求されている。株式会社たもかくでも、株主は共同利用地での「入会権」を有する会員であり、その利用に供する森つくりがおこなわれている。自ら身体的にかかわって自然の恵みを直接享受する「業」は、「環境の社会化」としての生業の系譜上にあり、「森業」と呼びたい。これからの流域社会の再生にとって、また、森林・林業の流域管理システムを活力をもって作動させるためにも重要である。
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