研究概要 |
これまでわが国の森林利用は,森林所有者による用材林業の展開という方向性を持って発展してきた。しかし、社会・経済的状況変化のもとで、この発展方向の限界が顕著になりつつある。従来、緑の羽根基金などのかたちで森づくりへの協力を示してきた国民も多かったが、ここに新たに活力をもって登場してきているのは、市民による森林経営・管理への直接参加である。 これら市民はグループをつくり、それぞれの地域で自らのフィールドをもって森林とかかわろうとしている。そして、里山サミット、全国雑木林会議、森林と市民を結ぶ全国の集い、など全国規模での意見交換会・相互交流が開催される進展をみせている。今回の研究によって情報や資料の収集に努めた結果、これら動向をほぼ掌握することができた。 共通している点は、森林「労働」を通して森に遊び森に楽しむことを追求していることであり(新しいかたちの「労働」)、また、広い意味での「環境問題」とかかわって登場している点である。自ら身体的に働きかけて自然の恵みを直接享受する「業」は、「環境の社会化」としての生業の系譜上にあり、「森業」と呼びたい。市民参加の森業をいかに流域社会のなかに設計し、位置づけていくかが、これからの森林計画・政策にとって重要である。 一方、このような「参加」を、所有者による経営の枠を越えて受け入れる試みも種々のかたちで始まっており、これら状況もほぼ把握した。市民を受け入れて多様・多元的で複層的な森林利用を行うには、権利とルールが新たに形成されてこなくてはならず、「協約」はその内容である。現代的な「入会権」創造が課題となっている。林政の中核に登場した森林・林業の流域管理システムは、森林のこのような「共」的管理をも組み込む必要がある。
|