森林の繁殖構造に関する研究は、これまで有力な研究手法がなかったこともあり、ほとんど進展していない。本研究では、DNA分子マーカーを利用して、親から子への遺伝子の流れを追跡することによって、繁殖構造の解明を試みた。モデル林として、九州大学宮崎地方演習林内に100m×80mの調査プロットを設定し、その中のアカシデ個体群を対象とした。DNA分子マーカーとしてはPCR(polymerase chain reaction)法を利用したRAPD(random amplified polymorphic DNA)マーカーを使用した。 その結果、沢によって分けられる2つの集団間で遺伝子組成に違いのあることがDNAレベルで確認され、家系構造の存在が明らかにされた。また、コンピュータプログラムを開発し、得られた。 RAPD分析データ(16プライマーの30遺伝子)を用いて、プロット内の全個体間組合せについて親子鑑定を行ったところ、親子の可能性の高い数組合せが得られた。この組合せに対しさらに遺伝子数(17遺伝子)を増やしてRAPD分析した結果、このうちの1組が真の親子(両親と子)であることが明らかになった。以上のように、DNA分子マーカーをこの分野の研究に導入することにより、これまで不可能であった森林の詳細な繁殖構造の解明が可能であることが示された。 また、より利用しやすいDNA分子マーカーを開発することを目的に、スギを対象樹種としてゲノム中のマイクロサテライト領域における高変異性(VNTR(variable number of tandem repeats))マーカーを開発するためのゲノムDNAライブラリーを作成した。このVNTRマーカーの利用によって、より簡便に(より少ない分析量で)繁殖構造の解明を進めることが可能となる。
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