樹木のリグナンの生合成機構を解明するため、その一環として、平成5年度は、数種のリグナンを合成すると共に、樹木におけるリグナンの生合成部位を検討した。 これまでにジベンジルブチロラクトン型リグナン(マタイレジノール)、フロフラン型リグナン(ピノレジノール)を化学合成し、キラルカラムにより各エナンチオマーに分離する条件を確立した。その他のタイプのリグナンの合成は現在検討中である。また、適切な植物材料を選定するため、Abies sachalinensis(トドマツ)の葉部、若枝及び木部中の上記リグナン及びジアリールブタン型リグナン(セコイソラリシレジノール)、テトラヒドロフラン型リグナン(トドラクトールA、ラリシレジノール)、アリールテトラヒドロナフタレン型リグナン(トドラクトールB、α-コニデンドリン)、フェニルプロパン3量体型リグナン(アビエゾールA)の含有量を調べた。その結果、これらは主に木部辺材及び心材部に含まれ、葉部及び若枝には含まれていないか、あるいは極めて少ないことが分かった。一般に、木部辺材及び心材部は、蛋白質(酵素)含有量が少なく、本研究の目的に適さない可能性がある。また同様の観点からAbies koreana木部及びMagnolia kobus var.borealis Sarg(キタコブシ)葉のリグナンを調べた。 その結果、前者から2種の新規化合物を含む6種のリグナンを単離同定した。一方、後者からは5種のフロフラン型リグナンを単離同定した。 今後、葉部あるいは若枝組織から調製した粗酵素抽出液を用い、無細胞系でのトレーサー実験により、数種のリグナンの生成のための酵素活性の測定を行う予定である。
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