研究概要 |
屋外で木材を使用すると日光や風雨の影響を受けて表層部1〜2mmが劣化する。これは、光による化学的な分解、乾湿繰り返しによる力学的破壊、雨水の表面張力によるコラプスなどが関与すると考えられているが、その相互関係は必ずしも明らかにされていない。ここでは太陽光を分光し、降雨も制御した条件下で暴露された木材表層部の劣化状況を組織学的に観察することによって、光と水の影響について考える。 【実験】1)木材--スギ辺材の板目木表。2)暴露条件--(1)分光:保谷ガラス製の各種フィルター(5×5cm,厚さ2.5mm)を用いて紫外線から赤外線域まで9段階に分光した。(2)降雨コントロール:降雨ありと降雨なしとに分けた。後者はガラスフィルターそのもので可能である。前者は相当する雨量が、試験片表面上に流れ込むようにした。(3)暴露:横浜国大構内の実験棟屋上において、南向き、30°の傾斜角で暴露し、経時的にサンプリングした。3)測定・観察項目--(1)色彩測定:ミノルタCR-300による。(2)組織観察:光顕・SEMによる通常観察のほか、塩酸フロログルシン呈色反応、偏光顕等、組織化学的な観察を行った。(3)剥離強度:劣化した表面に粘着テープを貼り、180°剥離試験を行った。 【結果】 1)初期段階の黄変は、500nm以下の短波長光によって生ずる。 2)退色は雨が関与した場合にのみ生じる。つまり、黄変化物質は水により流脱する。 3)大きな亀裂は、水分応力によるものであり、光は関与しない。 4)小じわ状の小さな亀裂は短波長の光が当たると生じ、雨が当たると著しく加速される。 5)短波長光によって、主としてリグニン・ヘミセルロースが分解され、水により流脱する。その結果早材部では細胞壁の薄化、晩材部では細胞間剥離を生じる。 6)細胞壁が薄化して脆弱化した早材部仮道管は降雨後の晴天時に水が蒸発するとき、水の表面張力によってコラプスする。その結果、早材部は次第に沈み込み、いわゆる目やせを生じる。 7)劣化後の表層部の剥離強度は健全材の1/8程度の低下する。
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