木材の横方向における力学的特徴は、細胞壁実質と空隙とで形成される幾何形状に大きく依存するため、繊維方向における場合、あるいは空隙を持たない他の多くの材料と異なり、それが端的に現れてくるのは、圧縮大変形過程においてである。このとき応力-歪曲線は3段階に分かれる特異なパターンを示す。すなわち、まず、変形とともに応力が直線的に増大する微小変形域があり、次いで、降伏値とそれに続く、変形がすすんでも応力があまり増加しない大変形領域にいたる。その後、細胞壁が互いに密着するほどの変形にいたって、再び応力は歪とともに急増する領域(圧密域)が現れる。本年度には、広い比重範囲にわたる17種の広葉樹林について、放射方向の圧縮試験を、20℃気乾、20℃飽水、100℃飽水の3条件で行い、得られた応力-歪図についてコンピュータ処理を行い、上に述べた特徴をもつ大変形挙動を統一的に表現し得る応力-歪式を見いだした。式中に含まれる2種のパラメーターはそれぞれ、降伏後の応力上昇の度合い、大変形領域におけるポアソン比に関係していることがわかった。また、式の決定過程で圧密域の始まる歪点、圧密歪は木材の比重、細胞壁の比重、および大変形領域におけるポアソン比に関係しているパラメーターで一意に定められた。さらに、接線方向になめらかな束縛を加えた圧縮試験の場合に得られた圧密歪は、木材の空隙率に一致することが分かった。なお、100℃を越える領域について、荷重-変位検出機構を持つオートクレーブ中で応力-歪測定を行ったが、負荷機構が油圧であるため負荷荷重によって変位速度が変化し定歪速度試験ができなかった。高温試験におけるこの問題をどう扱うかが次年度の問題である。
|