研究概要 |
木材横方向の力学的特徴は、細胞壁実質と空隙とで形成される幾何形状に大きく依存するため、繊維方向における場合、あるいは空隙を持たない他の多くの材料と異なる。それが端的に現れてくるのは、圧縮大変形過程においてであり、そこで応力-ひずみ曲線は3段階に分かれる特異なパターンを示す。すなわち、(I)変形とともに応力が直線的に増大する微小変形域の後、(II)降伏点とそれに続く、変形がすすんでも応力があまり増加しない大変形領域にいたる。さらに、(III)細胞壁が互いに密着するほどの変形域にいたって、再び応力はひずみとともに急増する。これら(I)〜(III)の領域について応力(σ)-ひずみ(ε)曲線は広い比重範囲にわたる樹種について次式で統一的に記述されることがわかった。 領域(I) ε≦εy σ=Eε 領域(II)および(III) ε≧εy σ/σy=1+b〔εD/{εD-(ε-σy/E)}-1〕 ただし、εd=1-k(ρ/ρs) ここで、σy、εy、E、ρ、ρsはそれぞれ、降伏応力、降伏ひずみ、ヤング率、木材の比重、細胞壁の比重である。εdは細胞内こうが消失するときのひずみ(圧密ひずみ)を意味する。また、ここで導入した2種のパラメーラー、(b,k)の粘弾性的特徴を明らかにするため、スギ、ヒノキ、カツラ、クリ、シラカシの、主に飽水材についてその温度、ひずみ速度依存性を検討した。b値は降伏後の応力上昇の度合いを示し、スギ、ヒノキについて、ひずみ速度や温度によらず一定値であった。しかし、カツラ、クリ、シラカシについてひずみ速度および温度の増加につれてb値は顕著な増加を示した。一方、kは大変形領域におけるポアソン比に関係していて、どの樹種についても温度によって変化しなかった。また、スギ、ヒノキ、カツラについてはkはひずみ速度によらないが、クリ、シラカシについてのそれは、ひずみ速度の増加につれて大きく低下した。これら、b値やk値の変動の原因は主に、圧縮時に生じる水分流動によることがわかった。
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