リグナンは生物活性のある植物フェノール性成分であるが、この生合成は不明である。その酵素レベル及び光学異性体レベルの研究は緒に就いたところであり、集中的な検討を必要とする。リグナンの生合成経路と立体化学を解明するために、本研究では日本産のサンショウ属を対象とし、レンギョウ属と比較する。ピノレジノールの旋光度は前者では(-)であるが、後者では(+)である。一方、セコイソラリシレジノールは両属共に(-)と大変興味深い。そこで、コニフェリルアルコールや(±)-ピノレジノールから上記リグナン類の生成を、取込み実験と粗酵素実験によって検討することを目的とする。本年度は植物を準備し、リグナンとその前駆体の合成と分析条件を確立し、粗酵素実験の開始を目指したところ、以下の実績を得た。 (1)サンショウ及びイヌザンショウを移植して本学構内で栽培した。本学の樹林地と構内のカラスザンショウとシナレンギョウを確保した。(2)HPLCによるリグナンの分析条件を求めた。(3)上記のサンショウ樹皮とシナレンギョウ若枝のリグナンのHPLC分析を行い、イヌザンショウからセコイソラリシレジノールとシリンガレジノールを、シナレンギョウからラリシレジノールをそれぞれ初めて検出した。(4)前駆体コニフェリルアルコールの標識化合物として重水素化合物を合成し、[^<14>C]化合物を合成中である。(5)ピノレジノール、ラリシレジノール、セコイソラリシレジノール及びシリンガレジノールを合成した。(6)イヌザンショウから粗酵素を抽出し、ピノレジノールとNADPHの存在下でインキュベーションした。(7)生成物としてラリシレジノールをHPLCで検出し、さらにこれが(+)体であることをキラルHPLCで明らかにした。このものは本粗酵素による(+)-ピノレジノールの立体特異的還元によって生成したとみなされる。レンギョウ属以外から初めてリグナン生合成酵素活性を検出したが、この活性は両属リグナンの立体化学の差異に重要な示唆を与える。
|