日本産淡水カジカ類5種(エゾハナカジカ、ハナカジカ、カジカ小卵型、カジカ大卵型、ウツセミカジカ)について、それらの卵サイズ、初成熟体サイズ、寿命などの生活史形質の特性を調査すると共に、アロザイム解析によって各集団の遺伝的変異性を見積った。そして、生活史の多様性と遺伝的変異性にどのような相互関係があるかを検討した。 1.カジカ属内で姉妹種群を構成するエゾハナカジカとハナカジカにおいて、集団の平均ヘテロ接合体率(H)は、小卵多産・両側回遊性の生活史を送るエゾハナカジカで0.002-0.026(平均0.019)、大卵少産・河川陸封性生活史を送るハナカジカで0-0.025(0.009)となり、前者で高い遺伝的変異性をもつことが示された。 2.両側回遊性のカジカ小卵型、河川性のカジカ大卵型および琵琶湖産ウツセミカジカでは、Hはそれぞれ0.31-0.42(0.038)、0.002-0.027(0.013)、および0.015となり、遺伝的変異性はカジカ小卵型で高く、カジカ大卵型で低いことが示された。 3.今回調査したカジカ属の2つの種群では、いずれも、海と川の異質な環境を行き来する両側回遊種の方が、一生を河川で送る河川陸封種よりも集団内に高い遺伝的変異性を保有していることが明らかになった。これは現在のところ、前者では幼期の海洋生活期に隣接河川個体群が混合し、個体群サイズの大きな繁殖集団を形成するのに対して、後者では各河川集団が互いに隔離され、比較的小さい個体群サイズであることに起因すると推察される。
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