研究概要 |
生活型の異なる日本産淡水カジカ属5種(エゾハナカジカ、ハナカジカ、カジカ小卵型、カジカ大卵型、ウヅセミカジカ)を用いて、生活史の多様性と遺伝的異変性に相関関係が存在するか否かを検討するために、本年度には、各種の生活史形質の変異について調査した。 1.生活環において、川と海という異質な環境を行き来する両側回遊種のエゾハナカジカとカジカ小卵型では、卵サイズは、1.6-2.1mm,1.8-3.1mm、孵化仔魚サイズは6.4-7.5mm、8.5-9.5mmであることをそれぞれ示した。 2.湖沼生活を送るウツセミカジカでは、卵サイズが1.4-1.6mm、孵化仔魚サイズが4.9-5.3mmの範囲で変異した。 河川で一生を送るハナカジカとカジカ大卵型では、卵サイズは2.5-3.1mm,2.5-3.7mm、孵化仔魚サイズは7.6-8.0mm,8.5-9.5mmであった。 以上の結果から、初期生活史を決定するこれらの形質に関しては、その変異性と生活環の違いとの間に明瞭な相関関係は見い出されなかった。 前年度のアロザイム解析によって得られた結果、すなわち集団内の遺伝的変異性は両側回遊種の方が湖沼性および河川性種より有意に高いことと、今回得られた生活史形質の変異性に関する結果を比較検討すると、生活史の多様性と遺伝的変異性に相関があるとした従来の見解は妥当ではないと考えられる。
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