ウナギの産卵は生理、生態学的に未だ多くの謎を残しており、これまで、生物学的な研究対象として多くの研究者の興味を惹いてきた。また、我国ではウナギは産業的にも重要な魚種であり、近年の天然シラスウナギの不漁により、ウナギの人工採苗法の確立には社会的要請が高まっている。これまで、ウナギ人工採苗法の確立のため、雌ウナギの人為催熟の試みは申請者の研究グループを含めた日本をはじめとしてヨーロッパ諸国などで行われてきた。しかし、それらの多くの努力にも拘わらす、その採苗法の確立には至っていない。その原因の多くは外因性のホルモンを投与されたウナギの卵巣発達の内分泌機構が未だ不明であることによる。人為催熟されたウナギには主に2つの問題が生じている。1つは卵黄形 上記の情報を踏まえて、本研究ではウナギのビテロゲニン合成機構の解析を通して、健全な稚魚の発生のためのビテロゲニンの合成を統御することを目的とした。ウナギの人為催熟はサケなどの脳下垂体を投与することにより行われているが、本研究ではまず、性成熟に伴う血中E2量の変化及びE2産生に重要な酵素であるアロマターゼの卵濾胞での活性変化を調べるとともに、肝臓でのエストロゲン受容体量の変化を結合実験により調べた。その結果、血中E2量は卵黄形成前期にはやや上昇するが、中期には低値を示し、卵母細胞が核移動期に達する最終成熟直前に急増することが明らかとなり、他魚種での報告と大きく異なっていた。また、卵濾胞におけるアロマターゼの変化及び肝臓でのエストロゲン受容体量の変化も血中E2量の変化によく相関していた。次に、肝臓でのビテロゲニン合成機構を詳細に調べるため、肝細胞で発現しているエストロゲン受容体とビテロゲニン遺伝子のcDNAクローニング、肝細胞培養系の確立及び培養肝細胞から分泌される微量なビテロゲニンが検出できる測定系(ELISA法)の確立を試みた。その結果、エストロゲン受容体cDNAのクローニングには成功した。しかし、ビテロゲニンcDNAのクローニングは未だ成功しておらず、現在継続中である。また、肝細胞培養系の確立及びビテロゲニンのELISA法の確立にも成功し、予備実験の結果では、雄よりも雌の肝臓の方がはるかに高いビテロゲニン合成、分泌能を有することが明らかになった。
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