スルメイカの資源変動機構に大きく関わっている再生産機構の解明を目的として、長期飼育実験手法を用いて、飼育下での成熟・産卵、人工授精および卵発生とふ化幼生の育成実験を実施した。本年度は最終年度に相当し、これまでの申請研究のとりまとめとともに、下記の各研究課題について追加実験を行い、次のような結果が得られた。 1.卵塊産出時の授精機構および完全な卵塊と崩壊した卵塊での卵発達条件の検討:飼育した雌1尾(外套長25cm)が、水槽内中層に完全な形で存在する卵塊(直径80cm)1個を産卵した。この卵塊を平穏な飼育水槽内にそのまま放置し、ふ化までの卵塊の形状変化を追跡した。卵塊内の卵数は約20万粒であり、卵塊は18℃の水温下で維持した。卵塊は、産卵直後は中層に漂っていたが、12時間後には海水表面に接した状態となり、産卵後5日目に卵塊はばらばらに崩壊した。すなわち、本種の卵塊はやや浮力を持つと推定され、実際の海洋中での探索の手がかりが得られた。また、完全卵塊と崩壊卵塊の内視鏡カメラによる観察から、完全卵塊では卵塊表面の膜を構成する包卵腺由来のゼリー膜が肉食性動物プランクトン、原生動物やバクテリアの侵入を阻止することを再確認した。 2.卵発生およびふ化幼生の最適生残条件(水温)の検討:これまでの人工授精による胚発生とふ化幼生の生残できる水温範囲の特定のための実験から、卵が正常に発生してふ化する水温範囲は、15‐23℃の範囲であることを示したが、この水温範囲は、実際の再生産域のふ化幼生の分布する海域の水温と一致していた。 3.ふ化後の幼生の行動特性、初期餌料生物の特定および発育過程の追跡:現在のまでのところ、初期の餌を特定するまでに至っていないが、かなり微小な原生動物や有機懸濁物プラス海洋バクテリアの可能性が見いだされている。また、外套長3.5mm以上では、胃中から動物プランクトンを確認できた。 4.最終年度報告書の作成:現在報告書の作成に当たっており、3月末までに印刷する。
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