スルメイカの資源変動に大きく関わっている再生産機構、特に雌の繁殖特性、産卵された卵塊の海洋中での存在状態と胚発生条件、その後のふ化幼生の初期生態などの解明を目的とした。具体的には、スルメイカの長期飼育実験手法を用いて、飼育下での成熟・産卵、産出された卵塊の性状、人工授精による卵発生とふ化幼生の育成実験を実施し、次のように成果を得ることができた。 (1)成熟特性の解明:交接は雌の卵黄形成に誘起しない。高水温は雌の排卵と産卵を誘起する。 (2)産卵行動の解明:雌は直径60〜80cmの透明なゼリー状卵塊を作る。卵塊は表面を包卵腺ゼリーが覆い、内部には輸卵管由来ゼリーが数十万個の卵を一定間隔で保つ。卵塊は中層に漂う特性があり、平穏な海水中ではやや浮力を有している。 (3)卵塊内での卵発達条件の検討:卵塊はふ化まで壊れず、表面ゼリー膜が食害性動物プランクトン、原生動物およびバクテリアなどの侵入を阻止する。 (4)卵発生とふ化幼生の最適水温条件の検討:スルメイカ類の人工授精法を確立させ、船上でのアカイカとトビイカの卵発生とふ化に成功した。スルメイカでは水温毎の卵発生試験を実施し、卵とふ化幼生の生残のための好適水温範囲は15〜23℃で、特に14℃以下は再生産に不適である。 (5)ふ化幼生の初期餌料の特定:ふ化幼生の初期餌料として、有機懸濁物とバクテリア、原生動物の可能性が高い。また、海中の溶存アミノ酸の取り込みも考えられる。また、外套超3.5mm以上の幼生では、胃中から動物プランクトンを確認できた。
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