(1)宮城県名取川河口域において、付着珪藻の現存量ならびに種類組成について調べ、平行して塩分、冠水時間底土の粒度組成などの物理化学的環境条件についての観測を行った。付着珪藻の種類組成は場所ごとに違いがみられる。川の本流の中にあって、水の流動が大きく、底質が砂れき質の場所にはAmphora ovalisやBacillaria paradoxia、小型のNavicula sp.の現存量が多い。干潮時に干出し、砂質の場所にはNavicula muticaやCymbella ventricosaなどが優占する。干潮時に干出し、含泥率が高い砂泥質の所は、Nitzschia kutzingianaなどが多く出現する。 (2)付着珪藻を食物としている二枚貝類やカニ類の分布・生活様式について調べ、またこれらの生物による被食状況について調べた。二枚貝類やカニ類の胃内容物のほとんどは付着珪藻とこれらの分解物と考えられるデトライタスで占められている。また、二枚貝類およびカニ類の生活場所は少しずつ、隔たりを保ちながら、生活していることが明らかになってきた。生活場所の違いは物理化学的環境条件、とくに底質の特性によってとらえることができる。 (3)名取川河口域において高密度に生息しているイソシジミによる付着珪藻の摂食量を推定するための飼育実験と摂食量と成長との関係をもとめるための飼育実験を行った。 イソシジミ稚貝(殻長5〜10mm)の場合の最大の日摂食量はクロロフィルaで25μgである。 20〜25℃の温度条件の下で最もよい成長が得られ、純粋培養の珪藻を食物として与えた場合、約120μm/day(湿重量で4μg/day)の成長速度が得られた。また、現場で摂食していると考えられる付着珪藻やデトライタスの混合物を食物とした場合には約80μm/day、(湿重量で2μg/day)の成長速度が得られた。 これらの結果から、河口域という比較的狭い空間の中にも、物理化学的環境条件の異なる場の分化が見られ、それぞれの場所における生物の分布状態に違いがみられ、さらに、付着珪藻などの一次生産構造の違いとなって表れてくることが分かる。また、物理化学的環境条件と同様に生物の生活活動、とくに摂食と排泄の問題がこの水域における物質循環を考える上で重要であることが明らかになり、飼育実験によって確かめていく手法もほぼ確立されたと考えている。
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