(1)河口域における有機物の分解と栄養塩類供給機構 河口域干潟では有機物も沈積しやすく、バクテリアなどの微生物による分解機構を把握しておくことが重要であるが、潮汐などの水の流動に伴う栄養物質の動き方を明らかにしておく必要がある。そこで付着珪藻の増殖にとって不可欠な栄養塩類の供給機構について、水中および間隙水の栄養塩濃度の時間的変化から検討してみた。栄養塩類は河川水によって運搬されるだけではなく、干潟の間隙水からの溶出によって補給されていることが明らかになった。 (2)研究成果のとりまとめ 河口域生態系は質的に異なる幾つかのサブシステムによって構成されており、それぞれのサブシステムは異なる生産系として認識できるミクロサブシステムのモザイク状の組み合わせであることが分かってきた。付着珪藻の増殖の特性についてはイソシジミによる消費と成長の問題、すなわち、栄養物質の輸送の側面から捉えることができた。また、付着珪藻の増殖のし方は非生物的環境条件と密接に結びついていること、更に付着珪藻を食物とするイソシジミの成長も非生物的環境条件との組み合わせによって規定されていることを明らかにし、生物生産の問題は非生物的環境条件と切り離して考えることはできないことを実証した。 今回の研究では河口域の生産力を低次生産者の生産過程を通して評価ができた。また、構造的には異質に見えるそれぞれのミクロサブシステムの機能的連続性について、水の流動に伴う栄養物質の動き方を追跡する事により明らかにでき、生態系の捉え方、アプローチの仕方に関する提言ができたものと考えている。
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