平成4年および5年5月から10月の期間において、毎月大槌湾で好気性光合成細菌の分布を平板培養法で調べ、毎年7月に、好気性光合成細菌が大槌湾全域にわたって優占となること、またその際には、好気性光合成細菌の全好気性従属栄養細菌に占める割合が多いときには50%以上にも及ぶことを発見した。好気性光合成細菌が大槌湾で優占となるときは、塩分濃度の低い河川水が大槌湾の表層全域にわたって拡散している時期と一致すること、さらに大槌川河口では6月から8月までの時期にわたって、従属栄養細菌に占める割合は小さいものの常にかなりの密度(103〜104/ml)の好気性光合成細菌が分布していた事実から、好気性光合成細菌が河川から運ばれ、さらに大槌湾内の環境に他の細菌よりも適していたために優占となったと推察された。以上のことから、大槌湾の7月の海水環境では、好気性光合成細菌がその環境に適応して増殖し、物質循環に重要な役割を果たしていることが示唆された。 大槌湾のでの分離菌株についてさらに、16SrRNA遺伝子や光合成遺伝子pufMの制限酵素切断片長の多型性を調べた結果、大槌湾で優占となった好気性光合成細菌は、系統進化的には単一の細菌集団に属することが明らかとなった。 一方、1989年にオーストラリアで分離された好気性光合成細菌について、16SrRNA遺伝子と光合成遺伝子pufMの抽出を行い、その制限酵素切断片長の多型分析を行った結果、63株の被験菌株が23クラスターに分かれ、オーストラリアで分離された好気性光合成細菌が系統進化的には雑多な集団であることがわかり、何故優占となるかは、その統一性状である「好気性光合成活性」によって説明される可能性が示唆された。 以上、大槌湾、オーストラリアでは内容に違いはあるものの、好気性光合成細菌がその光合成活性によって海域の物質生産力を高めている可能性が生態学的知見より強く示唆される結果となった。
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