1993年10月に沖縄県西表島の網取湾とそれに隣接する崎山湾で、死滅サンゴの回復に伴う魚類群集の変化を調べた。網取湾のサンゴは1981年頃にオニヒトデの食害を受け、ほぼ完全に死滅したが、現在一部のサンゴ礁では回復途上にある。一方、崎山湾では95%以上のサンゴが生存している。そこで、網取湾からサンゴがまだ回復せず、サンゴ枝の構造的複雑性が非常に低いサンゴ礁(以後、死滅サンゴ礁と呼ぶ)と、回復途上にあるサンゴ礁(被度で約80%が生存しており、回復サンゴ礁と呼ぶ)、および崎山湾からサンゴがほぼ完全に生存しているサンゴ礁(生存サンゴ礁と呼ぶ)を選出し、各サンゴ礁に1m×20mのトランセクトを5本設置し、魚類の種数と個体数を計数した。 回復サンゴ礁で観察した魚類の種数(トランセクトあたり平均34.0種)と個体数(194.6個体)は、死滅サンゴ礁(9.2種、17.4個体)よりも著しく多く、生存サンゴ礁(34.4種、191.4個体)と同じであった。回復サンゴ礁では、死滅サンゴ礁に比べ、1)サンゴポリプ食魚、2)稚魚、3)成魚の定住魚、4)成魚の移動魚が、種数と個体数ともに著しく増加していたことがわかった。また、回復サンゴ礁のこれらの魚類グループの種数と個体数は、生存サンゴ礁のものと同じであった。 このように、サンゴが完全に回復しなくても(つまり、80%の回復状態で)、魚類群集はほぼもとの状態にまで回復することが判明した。今後も引き続き回復サンゴ礁の魚類群集を観察し、サンゴが完全に回復したとき、魚類群集はどのような群集構造を示すか、調べる必要がある。
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