研究概要 |
漁獲行為に遭遇した後に脱出し,あるいは投棄された資源の生残性についての知見は十分ではなく,特に選択的な漁具漁法開発を進める上で,脱出魚が実際に生き残り、次の資源再生産に寄与しているかどうかは重要な問題となっている。このことについて検討するため,マアジ,マダイを実験魚として水槽内で延縄釣りと刺し網の実験を行い,漁獲過程における実験魚の行動,時間経過にともなうストレスの変化,そして漁具から回収して放流した後の生残率を実験的に確認した。特に本年度の研究の中心として,血液中コルチゾル測定によるストレス程度の判定を試みた。結果として,釣り漁具では釣獲後の死亡はほとんどなく,ストレス量も釣獲直後にピークをもち,その後は低いレベルに安定した。これは釣り針に掛かった個体がその状態に早い段階で順応し,一定時間後は激しい動きを示さなくなることに起因する。一方,刺し網の場合には羅網中に鰓蓋を塞がれるような掛かり方をして死亡する場合もあり,ストレス量も時間経過とともに増加する結果であった。また,回収後の放流でも当初は目に僅かに見える程度の網跡が日数経過とともに徐々に大きな傷となり,死亡に至る個体が多く出現した。このような結果は,漁獲過程において受ける魚体損傷やストレスの程度が漁具によって異なり,投棄され,あるいは脱出した個体のその後の運命も大きく異なることが明きらかであった。今後,幾つかの漁法について漁獲圧力を再検討すると同時に,生残の可能性を高めるための手法を確立することが必要であり,この考え方に立って漁獲死亡率に投棄魚,脱出魚の生残性を含めたモデルを作成した。
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