変温動物である魚類の低温適応機構をコイ(Cyprinus carpio)とニジマス(Oncorhyncus mykiss)の頭腎中に存在するナチュラルキラー(NK)活性を有する細胞(仮にNK細胞とする)を指標にして調べた。 ニジマスとコイのNK細胞は試験した哺乳類由来細胞数種と魚類由来細胞数種の中で、それぞれP815(mouse mastocytoma cells)とK562(Human chronic myelogenous leukemia)細胞を最も強く傷害し、標的細胞として最適であると判断された。ニジマスでは温度適応機構解明の基礎として主にNK活性の個体差を栄養学的、細胞学的に調べ、2編の論文として公表した。それらの成果を元に、温度適応はコイについて行い、1編の論文として公表した。 飼育温度と傷害試験温度の相互関係から、コイNK細胞の温度による影響を調べた結果、高温(25℃)飼育コイのNK細胞を低温(10℃)で傷害試験したときのNK活性値は、25℃で傷害試験を行ったときのNK活性値と比べて抑制されていた。しかし、10℃で飼育されたコイのNK活性値は飼育日数につれて25℃の傷害試験での活性値より高い値を示した。10℃飼育後7日で10℃でのNK活性値は有意に上昇し、39日後には25℃のNK活性値と同じになり、112日後にはその活性値は完全に逆転し、10℃でのNK活性値が25℃でのNK活性値を上回った。以上の結果から、コイNK細胞の細胞傷害能は温度依存性で、しかも環境温度に適応して細胞傷害能を維持していることが明らかになった。 また、この温度適応には白血球の構成細胞の変化も認められ、25℃飼育では小型リンパ球が多数を占めているが、10℃飼育では飼育日数の長期化とともに、小型リンパ球は減少し、代わって大型リンパ球と顆粒球の増加が特徴的であった。この細胞構成の変化とNK活性との関係は大変興味ある点であり、コイNK細胞の特定によって、本研究はさらに発展させうるものと考える。
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