1.ラット用脳定位固定装置を、鰓に向けて水が供給され、魚体がしっかりと固定されるように、魚用に改造した。 2.脳の表面に設定した500μm間隔のマトリックスにしたがい、深さ10μmおきに、100μA、8msec、100Hzの陰性矩形波により、微小電気刺戟を加えた。正常運動が誘発された部位の中で最も刺激閾値が低い領域は中脳被蓋部のの内側縦束核、内側縦束、上小脳脚であった。 3.一方の体側にのみ尾部を振る運動を誘起する部位が、上記した以上に多く分布した。これらの多くは感覚系から運動系への入力であり、方向転換などの際に反射的に遊泳運動を修飾するものと考えられる。 4.L-グルタミン酸を主に内側縦束核および内側縦束を目標に微量注入した。多くの場合、遊泳運動は注入中に始まり、6.5分から10分以上持続した。誘起された運動の大部分が、尾部をアミノ酸を注入した体側にのみ振る運動であった。正しく両側に振る運動は、正中部に注入したときだけに観察された。赤核への注入では運動が起きない。 5.内側縦束にHRPを注入すると必ず内側縦束核のニューロンが標識された。また、小脳に向かう軸索の中にも標識されるものがあった。 6.以上より、真骨魚において、遊泳運動を開始させる指令を発する中脳レベルの神経核は内側縦束核であり、脊髄への下降路は内側縦束であることが確定した。 7.コイの脳を局所破壊してから脳を封じ、水槽内でその行動を観察した。一方の内側縦束核もしくは内側縦束を破壊すると、魚は破壊した側の体側筋を動かせなくなった。赤核もしくは上小脳脚交連を破壊した魚では、破壊した側の胸鰭と腹鰭の動きが異常になった。この結果から、内側縦束核のニューロンは同じ体側の脊髄内リズム生成装置だけを賦活し、また赤核は対鰭の運動の制御に関わることが示唆された。 8.今後の課題は、内側縦束核の各ニューロンと脊髄内リズム生成ユニットとの関わり、リズム生成ユニットそのものの構造、および中脳遊泳運動誘発域に対する上位中枢による支配系の解明である。
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