1.淡水魚の嗅覚に及ぼす順応の影響 ニジマスおよびイワナを供試魚として嗅覚器のL-セリンに対する応答を調べた。次に濃度10^<-7>M〜10^<-3>MのL-セリンを背景に流して順応状態において応答を調べ、非順応時の応答と比較した。まず非順応時の応答の閾値は10^<-7>M程度であり、濃度の増加とともに応答は増大した。応答は背景濃度が増加すると減少する傾向があるものの、嗅覚器は順応しにくく、背景濃度の2倍程度の濃度増加は感知可能と考えられた。 2.淡水魚の味覚に及ぼす順応の影響 嗅覚器の場合と同様にニジマスおよびイワナの味覚器のL-プロリンに対する応答およびこの応答に対する順応の影響を調べた。非順応時の応答の閾値は10^<-6>M程度であり、濃度の増加とともに応答は増大した。応答は背景濃度が増加すると急激に減少し、背景濃度の10倍程度の濃度増加では応答が見られなかった。 3.以上のように、淡水魚において嗅覚器も味覚器も両者共に非順応時にはアミノ酸に対して低い閾値を持ち、広い濃度範囲にわたって応答性を保つとの従来の知見が本研究によっても確認された。しかしながら両感覚器に対する順応の影響には大きな差異があり、嗅覚器の場合は順応しにくくわずかな濃度変化を感知可能であるが、これとは対照的に味覚器の場合は順応しやすく、かなりの濃度変化も感知不能であることが示され、魚類における嗅覚器と味覚器の機能の相違の一端を明らかにすることができた。
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