ピンガは、送信情報として水温・水深・照度の3種類を対象とし、それぞれ1もしくは2チャンネを送信できるタイプとした。12月初旬、戸田漁協カニ篭漁で漁獲されたタカアシガニ甲幅180、甲長210程の5尾(♂2、♀3)を12月12日に受取り、駿河湾石花海北堆に運びDBTにて現場海域の水温鉛直分布を測定後、出力試験を行ったピンガをカニに装着した。カニの放流地点は、水深200mとし、石花海北堆の北側を西から東に向けて0.5マイル間隔とした。放流後の追跡の方法は、供試カニ番号を1、2、3、4、5とし、それぞれピンガの信号によって個体識別ができ、位置が特定できたら停船して水深を測定して情報を記録し、これらを順に1→2→3→4→5→4→3→2→1として繰り返すようにした。追跡は、途中海況が悪く船の運行が危険なため1日中断したが4日間行うことができた。この中で最も大きな移動をしたものは、総移動距離10.5kmに及び、移動速度は小さなもので20m/h、大きなもので140m/hであり7倍の違いとなり、雌が雄に比較して大きく、移動水深は、5尾について150mから320mの範囲となった。これにともなう環境水温は、8℃から13℃であり、水中照度は0.01から0.7ルクスであった。各個体について水平移動速度と垂直移動速度の双方から活動度を計算したところ例外なく夕刻から明け方にかけて明け方から夕刻に比べて活動度が大きくタカアシガニが夜行性であることが示唆された。水温や水中照度の変化と移動速度ならびに活動度とを対比させて見たところ相互に相関が認められなかった。特徴的な結果として全体的な移動方向は5尾ともに西から東に向かう方向となった。この方向は、観測中停船時に流される方向と一致しており、また実験期間中の黒潮の流動は、駿河湾の沖合いにあり、伊豆半島沖銭洲の南に流軸があったことからみても石花海北堆付近では、平均的には東向きの流れがあったと推定される。カニの移動方向は、平均的な流れに依存すると考えられる。
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