エビ・カニに代表される甲殻類には、ビテロゲニンおよび主要な卵黄タンパク質であるリポビテリンの存在が知られている。卵黄タンパク質前駆体であるビテロゲニンは脂質とタンパク質からなるリポタンパク質であり、卵の発生過程のエネルギー物質を卵巣へ輸送する役割を担っている。最近、ある種のエビ(オオバウチワエビ)の卵巣中にはリポビテリンの他に、リン脂質に富んだ低密度リポタンパク質の存在が見い出された。本研究の目的は、このリン脂質に富んだ新奇な低密度リポタンパク質の甲殻類卵巣における普遍性を検討し、甲殻類の卵成熟におけるこのリポタンパク質の役割を解明することである。平成5年度の研究実績は以下のようにまとめられる。 淡水産(オニテナガエビ、モクズガニ)および海産(オオバウチワエビ、クルマエビ)の各種甲殻類の体液、卵巣からそれぞれビテロゲニン、リン脂質に富んだ低密度リポタンパク質とリポビテリンを密度勾配超遠心分離、高速液体クロマトグラフによって分離することができた。このうち、ビテロゲニンとリポビテリンは分析した4種の甲殻類全てに存在したが、リン脂質に富んだ低密度リポタンパク質はオオバウチワエビの卵巣にのみ特異的に認められた。また、オオバウチワエビの体液ビテロゲニンと卵黄リポビテリンとの構成成分の比較から、ビテロゲニンが卵巣中で分解され、この分解にリン脂質に富んだ低密度リポタンパク質が密接に関連していることが示唆された。
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