1.初年度は、(1)自作農創設事業・農地改革・農民的土地所有に関する研究史ならびに論点整理をすすめつつ、(2)すでに入手している京都府庁資料の分析に手をつけつつ、主には(3)香川県大川郡大川町所蔵の旧役場文書の収集に取り組んだ。したがって、まだ具体的分析に基づく成果を提示できる段階にはない。 2.研究史ならびに論点整理は、(1)近現代における比較土地改革史と(2)わが国における近代的土地所有(近代主義)批判論の二つについて行った。(1)については、近現代における世界の土地改革は、(1)大土地所有の解体=小土地所有の創出という点で共通項をもつが、(2)創出された小土地所有が(小)経営を強化する役割を果たしたものと(大)経営を解体させることになったものとの二つに大別され、(3)わが国のそれは前者に属し、かつその中でも最も経営適合的な性格をもつ、という大まかな見取図を描くことが出来た。(2)については、日本における小(農民的)土地所有の性格を歴史的規程性の中で捉えること、すなわち、(1)農民的利用に敵対することによって成立した地租改正、(2)自然権思想の希薄さに起因する私的土地所有権の独走、(3)寄生地主制に対し近代的小作権と近代的所有権の獲得を対置した農民運動、(4)母法(小作法)無き小作調停法体制と小土地所有創出策の開始、(5)徹底した小土地所有の創出に終始した農地改革、(6)地価統制機能をもたない農地法、(7)国土の合理的利用の思想を欠いた土地政策、(8)高度経済成長による商品所有権としての土地所有権の一方的肥大化、という諸段階の分析を通じその中に位置付けるという、分析指針を得ることができた。
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