(1)小土地所有創出政策に対する批判的論調が根強くあるが、その歴史的意義を明らかにするためには、(1)小土地所有(および農業経営)をとりまく外部環境の分析が不可欠であり、また(2)現今の土地問題は歴史的諸段階における諸条件の積み重ねによって形成されていることへの配慮が不可欠である。また(3)小作運動の最先進部分が究極的には所有権獲得を目指すに至った歴史的事実にも、十分に配慮すべきである。 (2)わが国の自作農創設事業は、西欧諸国における入植=定住化政策ではなく、小作層の経済的・政治的成長を背景にした小経営強化・安定化策として実施された点で、大きな特徴がある。第二次大戦後の農地改革は、その延長上に位置づけられる。 (3)京都府下の商品生産の発展度からみた「先進」「中進」「後進」3地域について自作農創設事業遂行状況を比較すると、他の2地域に対して「中進」地域における実績が際だっている。これは、客観条件(小作料重圧の存続)に於いても主体条件(小作における政治的・経済的成長と地主側の土地放出要求)に於いても同地域が、自作農創設事業の受け入れを可能とさせる地域であったからである。京都府下で検出されたかかる傾向は、全国的にもほぼ妥当するのではないかと思われる。 (4)第二次大戦後の世界各国で実施された土地改革は、旧体制の崩壊と冷戦体制の開始という条件に規定された同時性をもっており、全体として色濃く社会的危機への対応という性格を有している。そのなかではわが国の農地改革は最も経済的変革と社会的・政治的改革の双方をパラレルに体現するものであったが、それはかかる前史=自作農創設事業をもっていることに起因している。
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