1.私は従来の中国の政治経済体制を「中国型社会主義」と概括し、その本質を、都市と農村との分断と相互の人為的結合(=行政指令型計画経済)、戸籍制度による都市、農村住民の身分的分断と職住一体の「単位社会」編制による封鎖的自足的社会(コミュニティー)形成、以上をつうじた国民経済の特殊な二元的再生産機構と特徴付けし、この「中国型社会主義」の形成、展開、崩壊の現段階を整理した。 2.「中国型社会主義」は政治・経済・社会の「近代化」に失敗した。その失敗の原因をソ連型社会主義と伝統集権的封建体制の構造比較を行うことによって、両者の同質性の中に検出した。 3.1980年代以後の「二元構造」の構造について、農業と農民に対しては旧来の行政指令型経済運営による差別と市場経済での不均等発展による差別が重層化された形で不利な条件は拡大しつつある。農業生産や農民所得は相対的に低下し、様々な形での労働力移動は強まりつつあり、この面では適正なマクロコントロールと誘導的市場経済化が必要になってきている。私は今日の市場化政策がこうした形で農業問題を深刻にしている点を指摘した。 4.市場経済化の推進と「二元構造」を崩壊させる強力な力は経済の対外開放である。沿海地域の対外開放は、今や「中国型社会主義」の市場経済への軟着陸の成否を担っている。対外開放は周辺の諸外国と地域との局地的市場圏形成という形で進み、地方の経済力を強化し、中央国家権力の求心力を低下させる方向に作用している。この問題について「環黄海経済圏」と日本の西日本の関わりを検討した。 5.農村の「二元構造」の変化と労働力移動問題について、1990年代の蘇南地域の経済発展と四川や安徽、貴州等の労働力移動の問題について研究中であり、沿海地域が輸出や外資導入によって経済が拡張し、これが奥地との格差を拡大し、労働力移動を引き起こしているが、しかし労働力の二重構造が形成され、労働力移動が異なる形の「二元構造」に結果していることを実証しつつあるが、期限までに纏められなかった。
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