農業の粗放化政策としてのECの農業環境政策は、92年のEC農政改革により本格的に成立したが、ドイツのバ-デン・ヴュルテンベルク州はECに先行して州独自の農業環境政策を推進してきた。実際の政策は、(1)ビオトープ・ネットワーク事業、(2)水質保全税、(3)市場負担緩和と農耕景観保全の調整金プログラム(MEKA)である。(1)ビオトープ・ネットワーク事業は農地の縁に生物の生息空間(ビオトープ)を創出して、これをネットワークする事業であり、(2)水質保全税は地下水取水井戸の周囲の農地での肥料、農薬の規制により水質改善を目標とする事業であり、(3)MEKAは農地の環境調和的な利用を面として促進する点数制の総合的事業である。いずれの場合も、これらの措置による農業経営の減収分は、直接所得補償の手法により、税金から補填される。 農業環境政策の原理は、環境に対する農業の否定的、肯定的外部効果の両側面にもとづいて構成される。多肥料、多農薬、多耕起、大型機械利用の集約的農業がもたらす地下水汚染、種の多様性の減少、土壌侵食、土壌圧縮などの否定的外部効果を減少させ、肯定的外部効果を増加させるのが、農業環境政策の本質である。 一般に環境政策は汚染者が対策コストを負担する汚染者原理に立つが、農業環境政策では、受益者原理に立つ。汚染者の特定が困難なこと、自然的生産ゆえに汚染の発生プロセスの管理が困難なこと、農産物価格支持制度ではコストを消費者に転嫁できないことなどが理由である。環境汚染対策としての農業の粗放化政策により発生する経営の損失が対策コストであるが、このコストは農家の環境不使用の受益者としての国民から、直接所得補償の手法で農家に補填される。上述の実際の農業環境政策がいずれも採用している調整金とは、この意味の直接所得補償なのである。
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