本研究は、東南アジアにおける小規模家族経営の発展方向を実証的データによって検討し、一層の農業発展に資することを目的としている。技術革新・制度革新の実態分析に加えて、個別農家の経営革新の必要性と可能性を解明することを狙っている。本研究は3カ年計画で実施中のものであり、平成5年度においてはアジア農業変化の方向性と農民対応パターンに焦点を絞って研究を実施した。 前者に関しては、東南アジアにおける稲作技術革新と土地制度変化を取り上げ、インドネシア、マレーシア、タイおよびフィリピンでの過去の農家調査結果に基づいて、土地所有、小作形態、小作条件および新技術導入との関連性について検討を加えた。後者に関しては、マレーシアにおける20年間にわたる継続調査の結果に主として立脚し、技術変化・制度変化に対する農業経営展開の過程と問題点について詳細な検討を行った。 研究成果の一部は現在とりまとめ中であるが、とくに急速な労働節約技術の展開が見られることが明らかになったのは重要である。すなわち、「緑の革命」と称された物理化学的技術革新の大きな流れに加えて、近年では機能化を直播栽培の導入によって、省力的な技術体系が確立しつつある。省力一貫技術体系が確立した地域では、経営規模拡大が進むので、技術変化が経営革新を誘発しつつあるといえる。一方、経営規模拡大が進まない地域も存在し、省力技術の段階と全般的な社会経済構造に起因すると考えられた。このような地域では、経営複合化の推進によって家族労働力の有効利用と高価値農産物の導入が課題となっている。
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