作物生育過程における諸量(葉面積指数、乾物重、作物高など)と温室微気候(温度、湿度、光強度など)のフィードバック構造を的確に反映し、それらの時間的、場所的変化に関する詳細な情報を与えることのできるようなモデル化を目的に、本研究では、まず、作物の生長を作物の最も重要な器官である葉の生長で代表させ、その生長過程を、「個体数動力学」の手法により様々な面積を持つ葉群の時間的、空間的変化として表し得るようモデル化した。次に、温室微気候を「輸送現象論」の概念に基づいてモデル化した。そして、微気候モデルと生長モデルを連結した総合的な温室微気候モデルの開発を試みた。 提示したモデルの妥当性を検討するため、敷地面積約15m^2の丸型単棟パイプハウス内に、茎長が約50cmのキュウリを14株定植し、5月末から7月末の約2か月間にわたる栽培実験を実施した。温室栽培実験で得られた葉面積指数、乾物重、作物高、群落内の温湿度、土壌温度の経時的変化を計算結果を比較したところ、両者はほぼ良好に一致し、作物層内のエネルギー、物質移動と、それに伴う作物生長過程を高い精度で予測し得る可能性が示された。特に、これまで葉面積密度の鉛直方向分布については、経験的に統計学的な分布関数の一つである不完全ベータ関数で表せるものと仮定されていたが、様々な面積を持つ個々の葉の数の計算に基づいた本生育モデルでは予め分布形状を仮定する必要がないことから、一段階進んだモデルであるといえる。 ただし、本研究では、新葉の発生率については明らかではなく、今後の課題として残された。
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