牛肉に対する電気刺激の効果については、これまで多くの研究者達によって追究されているが、我々は熟成中に牛肉のタンパク質がどのような機序で分解されるかについて報告してきた。今回は牛肉の熟成中に、これらのタンパク質に由来する低分子画分のペプチドおよびアミノ酸量は増加し、旨味にも大きく関係してくるので、本研究では電気刺激により牛肉のペプチドおよび遊離アミノ酸がどのように生成するのか、またこれらが筋原線維タンパク質あるいは筋漿タンパク質からどのように生成するのかについて本実験を行なった。 方法:実験にはヘレホード種の去勢牛を用い、電気刺激は0、30および60秒をそれぞれ3頭づつ行なった。筋肉部位は、と殺後2時間目に大腿二頭筋を採取した。熟成中におけるドリップロスや採取位置による差異をなくするため、牛肉ホモジネートを調製した。これを二等分し、一部はホモジネートのままで保存し、一部は遠心分離により筋原線維タンパク質と結合組織を取除いた筋漿画分を得て、ホモジネートの場合と同様に保存した。ペプチド量はローリー法で、遊離アミノ酸はOPA試薬によるアミノ酸分析機で行なった。結果:電気刺激を行なった場合、ペプチド量はと殺後6時間目からすでに対照区よりも高い値を示し、21日目までこの傾向は続き、21日目で牛肉100g当たり49.1-53.3mg(13.8-15.0%)対照区よりも増加した。ペプチド源として筋原線維タンパク質を含まない筋漿画分だけの時には、ペプチドの増加はやや低く推移するが、それらの増加量はいずれの場合もホモジネート保存のほぼ半分であった。このことは呈味成分の一つであるペプチドは筋原線維タンパク質ばかりではなく、筋漿タンパク質も貢献していると考えられる。遊離アミノ酸総量は保存日数と共に増加したが、電気刺激による量的な差は見られなかった。しかしながら、個々の遊離アミノ酸を見ると、グルタミン酸は電気刺激により6時間目から増加し、21日目まで続いた。また筋原線維タンパク質を含まない筋漿画分の場合には、対照区におけるグルタミン酸量は保存日数と共に急増加し、21日目においていずれの場合よりも高い値となった。これらのことから牛肉に対する電気刺激は、タンパク質の分解を促進し、牛肉の旨味成分に関与するペプチドおよびアミノ酸量を増加させることが分かった。
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