家畜排泄物コンポストによる種子発芽阻害機構について解析し、下記の知見を得た。 (1)コンポスト水抽出液は、ソルガム種子を水に浸漬して3〜4時間後から増加する生理的水吸収を阻害し、活性のない種子でも生ずる物理的水吸収にはほとんど影響しない。 (2)ソルガム種子の発芽初期過程では種子内ATP濃度、生理的水吸収、アミラーゼ活性がほぼ同時並行的に増加し、コンポスト水抽出液はいずれも強く阻害し、それらの程度と発芽阻害との間にも強い正の相関が認められた。 (3)コンポスト水抽出液は、水浸漬3時間後からのATP濃度の増加を抑制する一方でADP量を2〜5倍増加させることから酸化的リン酸化作用を阻害するものと考えられた。 (4)ソルガム種子の発芽過程では、少なくとも4つのアミラーゼアイソザイムが時間の経過に伴って生成し、コンポスト水抽出液は特定のアイソザイムの生合成を強く阻害する。 (5)コンポスト中の無機塩類、重金属、フェノール酸類は、コンポストに通常含まれる濃度ではソルガム種子の発芽にほとんど影響しない。 (6)カラムクロマトグラフィーなどによりコンポスト中の発芽阻害性有機化合物を検索し、GC-MSで同定したところ、C_<14>〜C_<18>の長鎖脂肪酸類が検出された。標品による検定の結果、40ppmでは、短鎖、中鎖の脂肪酸が全く発芽阻害作用を示さないのに対し、C_<14>以上の長鎖脂肪酸、特にミリスチン酸、ステアリン酸が強い阻害作用を示し、その作用機構は、発芽阻害性コンポストの水抽出液と極めて類似していた。 以上の結果から、コンポスト中の主要発芽阻害成分は長鎖脂肪酸であり、これらが発芽初期過程の酸化的リン酸化作用とアミラーゼ生合成を阻害し、代謝活性と種子内の水ポテンシャルの低下を抑制して生理的水吸収を低下させ、発芽阻害に至ると結論した。
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