過去2年間にわたり実施してきた本研究「家禽精子の膜の機能に関する分子生物学的研究」の成果を要約すると次のようになる。 (1)家禽精子の膜の機能は、様々の因子によってコントロールされており、単一の条件によって左右されないことが確認された。また、精子の膜の機能を調節している主なものは膜の構成成分の一つである燐脂質が生化学的に変化することによるものであることが明かとなった。さらに、この燐脂質を性格をコントロールすることによっても、精子の膜の機能が大きく変化することも観察された。 (2)また、家禽精子の生理学的特徴は、体外保存した場合に顕著に見られる受精率の低下であるが、これの主な原因も膜の機能変化にあることが明かとなった。この場合、膜の生化学的な機能を損なわないような精液希釈液を開発することによって、ある程度は精子の受精能力を保持することが出来るという可能性も示唆された。 (3)これまでの常識として、精子の生理的機能が飼料中の成分によって調節されるというような事は全く考えられていなかった。しかし、今回の実験によって、精子のATPの濃度が飼料中の蛋白質含量によって変化するという現象が見られた。このことがもし事実だとすれば、今後精子の機能とくにエネルギーとしてのATP量を人為的に調節することができるということが示唆された。 (4)細胞膜の修飾剤である「membrane purterbances」を精液の希釈液に添加すると、精子の膜の機能がある程度変化をうけて、運動性あるいは体外保存した場合の生存率などが改善されるとともに、受精能力もかなり改善されるということも確認された。したがって今後は精液を凍結保存する際にも、この方法は検討するに値するものと推察された。 (5)これらのことを総合してみると、本研究の成果はこれまでの常識をある程度破るというものもあり、今後再検討を要することが必要であろう。しかし、これらの結果は事実であり、真実の現象として謙虚に受け止めることが大切である。これまで筆者らは、かたくなに家禽精子の膜の機能と受精能力との関連性について検討してきたが、今回の成果は、さらに新しい事実を提供してくれたことになり、今後の研究の領域が一段と広まったことになる。
|