研究概要 |
炭酸ガス麻酔と殺豚(G豚と略)の放血血液中のアドレナリン(A)濃度を電殺豚(E豚と略)のそれと比較すると,そのレベルはかなり高いが,PSE発生率が低いという.まず筋肉中のA濃度を測定比較したが,血液同様,C豚の筋肉中のレベルはE豚に比べて高かった.pHの測定結果は,と殺直後〜30分ではG豚筋肉のpHはかなり低い(pH6.2)が,以後3時間まではやや上昇(pH6.7)し,それ以後は経時的に低下した.それに対しE豚は初め高く(pH7.4),以後は単調に低下した.G豚筋肉のと殺後初期pHが低い原因は,炭酸ガス吸入による呼吸性アシドーシス(RA)が原因と推定されたので,筋肉中の炭酸イオン濃度を実測したところ,推定通りG豚のと殺直後のレベルは高く(約4倍),以後経時的に低下したのに対し,E豚では低く無変化であった.このG豚のと殺後初期の低pHは,死後の筋肉内クリコ-ゲノリシス(GL)を起動させるcAMPを,ATPより生成するアデニル酸シクラーゼ活性を抑制していると推測されるので,次にcAMP量を経時的に測定しその活性変化を調べた結果,G豚のcAMPレベルはと殺後初期段階で極めて低く,E豚では対照的に高いこと,さらにGLの最終産物,乳酸の生成も,これと対応してと殺後初期段階で遅滞していた.一般にPSE異状肉の発生は,と殺時豚へのストレス負荷が大きいと,と殺後初期のと体温度が高い間に代謝性アシドーシス(MA)が促進されて短時間内に多量の乳酸が生成し,筋肉のpHが急速に酸性極限pH(5.5)またはそれ以下にまで低下するために筋肉蛋白質が変性することが原因であるとされている.これに対してG豚ではと殺後の初期段階のpH変化はむしろ逆に低く,MLの進行が抑制されているためPSE発生が抑制されていると考えられた.さらにこの事実は,Aのβ_2-受容体遮断剤ブトクサミンを投与後,と殺したラットでは完全に乳酸生成が抑制されたことから,G豚の死後変化の初期段階における低pHに起因するGLの抑制が,正にPSE発生抑制の主原因であると結論された.
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