メタン生成の特異的阻害剤(BES)を添加し、発酵で生じる水素の蓄積量に及ぼす影響を検討したところ、ルーメン微生物系で100〜2000倍蓄積したのに対し、ブタ盲腸微生物系では5〜10倍にすぎなかった。これはルーメンでの水素処理がメタン生成によって行われていることを示唆する。次にメタン菌と硫酸還元菌数を測定したところ、ルーメンの水素処理優占菌はメタン菌であるのに対し、ブタ盲腸は硫酸還元菌であることがわかった。この理由を知るため、消化管内容物の硫酸イオン濃度を測定した。めん羊ルーメンでは最大でも1mMしかなく、著しく低いことがわかった。ブタ盲腸では、最大5mMまで上昇した。ルーメン液に硫酸カリウムを加えて、メタン生成が抑制され、硫酸還元が促進される濃度について検討した。10mM12上の硫酸イオン濃度で硫酸還元活性が増加し、メタン生成が減少した。しかし、最もメタン生成が抑制を受けた場合でも、90%の水素(電子)があいかわらず、メタン生成によって処理されていた。このとき、硫酸イオンが10mMを越えるとセルロースの分解が抑制をうけた。生成した硫化物イオンの影響をセルロース分解菌がうけたと考えられたが、詳細については、なお不明である。次にめん羊ルーメンに硫酸ナトリウムを直接投入して、その影響を検討した。ルーメンの硫酸イオン濃度を3〜4倍上昇させた結果、硫酸還元菌数が増加し、硫酸還元活性も増加した。しかし、メタン菌数とメタン生成活性は、明らかな変化を示さなかった。結局、ルーメンのメタン生成を硫酸還元菌を使って抑制することはむつかしく、ルーメンにおける水素生成菌とメタン菌の共生について、さらに知見が必要であることがわかった。
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