研究概要 |
ラット初期胚の体外培養において,後期前核期胚は従来からラット胚の培養液として使用されていた修正KRB培養液では,2細胞期で発生を停止するが,その培養液からリン酸を除去し,さらにNaCl濃度を118mMから85mMに低下させることによって高率に2細胞期を越えて胚盤胞期へ発生すること,および初期前核期胚の発生が前核期から2細胞期にかけてPHA-Pレクチンで処理することによってさらに促進されることにこれまでに報告した。しかしながら,レクチンは植物由来の成分であることからおそらく同様の胚発生促進物質が卵子の発生器官である卵管内環境内に存在する可能性が示唆され,この点について検討を行った.先ずラット初期前核期胚をラット摘出卵管あるいは卵管上皮細胞との共培養を行った結果,全ての胚は2細胞期で発生を停止した。さらには培養卵管上皮細胞の培養上清を添加した培地においても同様に発生を停止した。次に,卵管抽出液をゲルろ過で分画しそれぞれの分画成分を添加した培地で培養した結果,卵管抽出液中には胚発生促進活性(分子量,約70,000)と発生阻害因子(分子量,約50,000)とが共存していることが判明した。現在,胚発生促進活性は,生理的塩濃度およびpHの緩衝液においてヘパリンには結合せず,しかも陰イオン交換樹脂に結合することが明らかにされているが,細胞表面複合糖鎖を認識するレクチン用活性を持っているかどうかは不明である。 また,マウス胚のコンパクションに細胞表面N結合型糖鎖が関与していることをN結合型糖鎖を特異的に切断するNグリカナーゼを用いて明らかにしている。そこでNグリカナーゼ処理前後の胚をSDSポリアクリクアミド電気泳動によって展開した後,ConAによるレクチンブロットを行った結果,90kD,65kDそして36kDの成分が酵素処理によって影響を受けることから,これらの成分に結合しているN結合型糖鎖がコンパクションに関与していることが示唆された。
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