研究概要 |
豚の萎縮性鼻炎(AR)の鼻甲介骨病変の発生に,Bordetella bronchiseptica(Bb)およびPasteurella multocida(Pm)由来の皮膚壊死毒素(DNT)が注目されている。この研究は、骨芽細胞系細胞株であるMC3T3-E1細胞を用いて両DNTの毒性作用を検討したものである。得られた成績は次の通りである 1)細胞増殖活性をニュートラルレッドの取り込みによって検討した。その結果、100ng/ml以下で両DNTは増殖因子的に作用したが、Bb-DNT 1,000ng/mlの高濃度処理に対しては細胞分裂を阻害し増殖を抑制した。 2)1,10,および100ng/mlの両DNTを処理し、アルカリフォスファターゼ(ALP)染色および抗コラーゲン血清を用いたABC法で細胞機能の変化について検討した。その結果、両DNTの低濃度処理で、ALP活性およびコラーゲン産生能は、持続的に抑制されていた。即ち、両DNTは細胞に対して機能的に障害をもたらし、造骨能減退を生じさせることが示唆された。 3)1,10,および100ng/mlの両DNTを処理し、その形態的変化を検討した。その結果、Bb-DNTで細胞は膨化し、細胞質内には小空胞が形成されていた。また、多核細胞の出現を伴っていた。Pm-DNT処理では、1〜3日後には線維芽細胞様に、それ以降は小型化し非処理細胞のそれと同形態を示した。超徴形態的にBb-DNT処理細胞はミトコンドリアおよび小胞体の膨化ないし空胞状拡張など明らかな諸器官の変性が見られた。一方、Pm-DNT処理では、変性性変化は軽るく、軽度のリオゾームの減少およびミトコンドリアの拡張を見るにとどまった。 結論:低濃度の両DNTは細胞に対しては増殖的に作用するが、機能的には抑制的に作用する。とくに高濃度のBb-DNTは細胞に対して強い障害を与え、ALP、コラーゲンなどの分泌障害をもたらし、骨形成機能減退に関与することが推考される。それら所見は、in vivoにおけるARの骨芽細胞の病態に酷似している。
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