平成5年度にはまず、ここ数年発生が比較的顕著にみられるトラフグの鰓に寄生するトリコジナについての検討を行った。検討した試料は静岡県田子の養殖場より得たホルマリン固定材料である。鍍銀法ならびに走査電子顕微鏡観察により形態学的観察を行った結果、得られた所見を従来報告されているフグ類寄生の3既知種と比較したところ、それぞれの種とは明瞭な相違点が存在したことから新種であると考えられた。この結果より、我が国の海産魚には当初の予測通り固有種が存在することが明らかとなった。これに引き続き、平成6年度には養殖ブリに認められた寄生原虫についての検討を行った。材料は大分県水産試験場より提供を受けた畜養中のブリ稚魚である。通常の光学顕微鏡的観察に加え、鍍銀法ならびに走査電子顕微鏡により観察を行った結果、2種のTrichodina属繊毛虫と、1種のScyphidia属繊毛虫の寄生が認められた。検出された2種のTrichodinaのうち1種は、新種であると考えられ、ブリにも固有種が存在することが明らかとなった。Scyphidia属繊毛虫については体長50-70μmで、後方の付着器末端が幅広いことが特徴であった。繊毛虫が付着した鰓の病理組織切片を作成し、その病原性について検討した結果、Scyphidia属繊毛虫の付着部位では内毛細血管に出血が見られ、鰓薄板の癒合が認められたことから、本繊毛虫の鰓への寄生は宿主に比較的大きな影響を与えていることが窺われた。最終年度には、トラフグに寄生の見られた新種Trichodinaの病原性に関する検討を行った結果、走査電子顕微鏡像では、鰓薄板の表面のトリコジナ付着跡には深い組織の陥没が見られ、また病理組織標本においては、本繊毛虫の寄生部位に鰓弁構造の崩壊および粘液の異常分泌が認められたことから、本繊毛虫のトラフグに対する病原性はかなり強いものと判断された。
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