研究概要 |
本研究は、乳牛の分娩に起因した起立不能症(分娩性低Ca血症)の予防法を確立することを目的として、陽陰イオンバランスの差によって生ずる酸塩基平衡の変化が血中のCa代謝とその制御ホルモンに及ぼす影響を調べたものである。 実験は、ラット、緬羊および牛に陽イオン交換樹脂アンバーライトIR-22(樹脂)を投与し、樹脂の投与による生体の酸塩基平衡と無機質とくにCaと1,25(OH)_2D代謝に及ぼす影響について検討した。 樹脂の投与による主なる結果は、以下のとおりである。 1.ラットに対する樹脂添加飼料は、代謝性アシドーシスを発現させて、骨からのCaを溶出させ、血中Ca濃度を上昇させることが明らかとなった 2.緬羊では、血液pHは7.280と明らかに低下し、血漿HCO_3濃度も低下した。一方Cl濃度は上昇した。しかし、明瞭なアシドーシスにもかかわらず臨床症状の発現は認められず、今後の代謝性アシドーシスと臨床症状の発現、とりわけCa代謝異常との関係を明らかにする上で、新しい知見を得ることが出来た。 3.牛においても、緬羊の結果とほぼ同様の結果が得られた。すなわち、血液pHとHCO_3濃度は低下し、一方血漿Ca^<++>濃度および血漿Ca^<++>/Caは上昇する傾向を示した。また、第一胃液pHは低下した。 以上のごとく、ラット、緬羊および牛において樹脂の投与は代謝性アシドーシスを引き起こすことが明らかとなった。すなわち、投与された樹脂は、第一胃内において充分に陽イオンを吸着し、消化管内の陽陰イオンバランスをコントロールできることが示唆された。したがって、これら一連の結果は、今後の起立不能症の予防に樹脂を用いた新たな方法が導入できる可能性を強く示唆するものと考えられた。
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