耐熱性溶血毒(TDH)産生性腸炎ビブリオは汽水産巻貝の一種、イシマキガイの稚貝から高濃度に検出される。イシマキガイ稚貝の消化管への定着量は、TDH産生性菌は10^4〜10^5cfu/gレベル、TDH非産生性菌は10^2〜10^1cfu/gレベル、成貝への定着量はTDH産生菌・非産生菌ともに10^0cfu/gレベルである。本菌は海産巻貝のアマオブネには定着しない。イシシマキガイ血液細胞の機能は貝の発育段階によって異なり、成貝の血液細胞は貝血漿の有無にかかわらず腸炎ビブリオに対して遊走するが、稚貝の血液細胞は血漿ほ含まない塩類溶液中では腸炎ビブリオに対しては遊走しない。このため、血液細胞が消化管腔に遊出しても、血漿の存在しない消化管内では腸炎ビブリオを処理できず、このことが消化管に腸炎ビブリオが定着する一因になっていると予想される。 本年度は、腸炎ビブリオの定着に対する貝血漿因子の関与を明らかにする第一段階として、3種類のNeritidae科巻貝類(イシマキガイ、アマオブネ、アマガイ)より血漿を回収し、腸炎ビブリオの定着するイシマキガイと定着しないアマオブネ・アマガイの血漿蛋白質のSDS-PAGE泳動像を比較した。その結果、3種類の貝に共通するバンドと各貝に特異的なバンドが認められた。次に、イシマキガイとアマオブネの血漿に対するモルモットの抗血清を用いて、3種類の貝の血漿蛋白質の抗原性を調べた結果、各々の貝に特異的な抗原と3種類の貝に共通する抗原が検出された。今後は、イシマキガイの血漿より腸炎ビブリオの認識に関与する因子を単離し、腸炎ビブリオの消化管内定着との関連性を明らかにする予定である。
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