耐熱性溶血毒(TDH)産生性腸炎ビブリオはイシマキガイの消化管から検出される。イシマキガイ成貝の血リンパには成熟した血液細胞が多いが、稚貝の血液細胞は未熟で、遊走・貧食能に発現に血漿を必要とする。腸炎ビブリオに対する血液細胞の反応性の違いから、血漿の存在しない消化管腔には腸炎ビブリオは血液細胞の存在下でも高濃度に定着しうると予想される。そこで本研究では成貝と稚貝の消化管へのTDH産生菌と非産生菌の定着量を比較し、さらにイシマキガイの血漿蛋白質の組成を解析した。 TDH産生菌D3株、非産生菌R13株及びN18株を経口投与したイシマキガイの成貝と稚貝を塩分濃度20%、水温28℃の人口海水中で21日間飼育し、消化管内の菌数の変動を調べた。投与直後は10^5cfu/g前後であった菌数が、成貝では3株とも徐々に減少して投与後21日以内に10^0cfu/gレベルになった。稚貝ではD3株は10^4〜10^5cfu/gレベルを21日間維持していたが、N18株とR13株は徐々に減少して、21日目には10^2〜10^1cfu/gレベルになった。この成績から、稚貝の多い水域では水温の高い時期にTDH産生菌と非産生菌が稚貝の消化管を繰り返し通過することにより、TDH産生菌の比率が徐々に高くなると予想される。 3種類のNeritidaeの科巻貝(イシマキガイ、アマオブネ、アマガイ)より血漿を回収し、腸炎ビブリオの定着する汽水産のイシマキガイと定着しない海産のアマオブネ、アマガイの血漿蛋白質のSDS-PAGE泳動像を比較した。その結果、3種類の貝に共通するバンドと各貝に特異的なバンドが認められた。次に、イシマキガイとアマオブネの血漿をモルモットに免疫して得た抗血清を用いて3種類の貝の血漿蛋白質の抗原性を調べた結果、各々の貝に特異的な抗原と3種類の貝に共通する抗原が検出された。
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