本年度では、主として担子菌Pleurotus ostreatus(ヒラタケ)が生産するリグニン分解酵素であるマンガン依存性ペルオキシダーゼ(MnP)について、その生産性、精製方法、諸性質、リグニンモデル化合物の分解反応について検討を行なった。 P.ostreatusを木粉培地で培養すると、各種リグニン分解酵素のうち特異的にMnPが高生産されることが明らかとなり、本酵素のリグニン分解における重要性が示唆された。また、P.osteratusの液体培養系においては、本酵素は培地に添加したマンガンイオンによって誘導生産されることが明らかとなった。本酵素を各種クロマトグラフィーにより、電気泳動的に均一状態にまで精製した。収率は約2%であり、比活性は約30倍に上昇した。精製酵素を用いて、本酵素の諸性質について検討したところ、本酵素は分子量約43、000のモノマー酵素であり、反応の最適pHは6.0、最適温度は50℃であった。また、本酵素は40℃まで、およびpH6.0付近で安定であった。本酵素は各種基質の酸化活性に二価のマンガンイオンを必須とし、二価のマンガンイオンの三価への酸化反応を触媒した。従って、本酵素の触媒機能は二価のマンガンイオンの酸化反応にあり、生成した三価のマンガンイオンがリグニンなどの基質を酸化するものであると考えられた。本酵素による各種低分子リグニンサブストラクチャーモデル化合物の分解反応について検討を行なったところ、本酵素はフェノール性β-O-4リグニンモデデル化合物である、シリンギルグリセロール-β-グアイアシルエーテルのアルキル-アリール開裂、およびα位の酸化反応を触媒することが示唆された。さらに本酵素のアミノ酸配列をN末端より30残基まで決定し、この知見は次年度に予定しているMnP遺伝子、cDNAのクローニングに際して必須となるものである。
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