ヒト赤血球に線溶増強作用があることは既知のことであるが、ウシ、マウス、ニワトリ赤血球とそれらの溶血液にも、プラスミン(Pln)やプラスミノーゲンアクチベータ-(Act)による直接的作用ではなく、線溶因子活性を増強する作用のあることが判明した。そこでウシ赤血球から溶血液を調製し、線溶増強作用を有する画分を分離、その性状について検討した。活性画分はヒドロキシルアパタイトには親和性があり、0.4Mリン酸緩衝液(pH7.4)で溶出した。リジンアガロースには親和性を認めなかった。HPLCによるサイズ排除クロマトグラフィでは、活性の主体は280nmで描かれる第一のピークに存在した。このうち組織PA(t-PA)活性化に効果的な画分は再度のHPLCを行った結果、単一のピークを示した。また、ザイモグラフィによるとActによる活性化反応では、ウロキナーゼとt-PAの移動度の変化なく、活性は増強された。t-PAによるプラスミノーゲン(Plg)の活性化過程においては、溶血液の参加はPlgと基質とがt-PAと会合する以前に加えることが最も効果的であり、37℃の加温は更にこの効果を助長した。 次いで、フイブリン(Fbn)血栓の溶解過程への赤血球の効果をトロンブエラストグラフィ(TEG)によって検討した。TEGに現れる凝固過程の時間因子と振幅で表される血栓弾性とはFbn濃度に強く関連し、Fbn濃度の増加は各々凝固系時間の短縮、振幅の拡大をもたらした。一定濃度のFbnにウシ赤血球が加わると、赤血球数の増加に伴って凝固系時間は延長するが、血栓弾性に変化は認められなかった。一定PlnによるFbn血栓の溶解過程に赤血球が加わることによって、溶解時間は延長した。そこで赤血球を生理的食塩水で洗浄したところ、溶解時間に改善が見られた。 以上のことから、Fbn溶解過程に赤血球の関与は明らかであり、間接的な因子によって緩やかに溶解過程を制御していることが示唆された。
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