強力な血管収縮因子アンジオテンシンII(AII)は、高血圧発症のみならず、最近では、心筋肥大、血管平滑筋肥大を起こす作用があることから、これらの原因あるいは進展因子としても注目されている。一方、神経細胞で見られる長期増強現象(神経細胞同士の接続点であるシナプスでの信号の伝達効率が、高頻度刺激により長時間に渡り促進される現象を言い、記憶の形成過程に重要とされている。)と類似の現象が、非神経細胞でも観察されるようになり、AIIに関しても、副腎皮質でのアルドステロン分泌促進作用が、AIIの反復刺激で増強される現象が確認されている。従来、AIIが関与する疾患は、全てAIIあるいはその受容体側の量的増加による機能亢進で生ずるとする考え方で研究が進められてきた。そこで本研究において申請者は、AIIの機能亢進による疾患が、未梢系での長期増強に類似した現象によっても起こり得るとの発想にたち、まずそのための解析に適した細胞株を樹立し、AIIによる疾患と長期増強現象との関連を追求する土台を築くことを目的とした。 本年度は、AIIの生体での主要な標的組織である脳下垂体前葉に由来する細胞株AtT20(AIIの既知の全ての生理作用を担うタイプ1AII受容体(AT1)を欠損)に、AT1受容体遺伝子を導入しこれを安定に発現する細胞株の樹立に成功し、今後の解析の土台を築いた。また、以下のことも明かとなった。 1.AIIが濃度依存的にACTH分泌を促進し、しかもコルチコトロピン放出因子のACTH分泌作用を強力に増強することから、ACTH調節因子として生理的に重要な因子であることが示唆された。 2.樹立した細胞株は、AII刺激により電位依存性カルシウムチャンネルを開口することが分かり、従来から不明な点の多い開口までの経路を知るのに適している細胞であることがわかった。
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